エマルジョン燃料製造装置開発物語
2013/09/12|会長ブログ
昭和56年頃、当社が開発したプロセスブレンダー(給油船、内航船向けブレンダー装置)が軌道に乗り、関東地区への販売が増加するにつれ、顧客からの要請で同装置のメンテナンスなどのため4月には東京に営業所を開設しました。
要員は、本社今治地区の造船所購買でお世話になった大手船舶会社の元所長のN顧問と社員1名でのささやかな開業ではありました。その後、Ⅰ重工のNさん・元U研究所IO先生など小生の旧知の仲間(大正の終わりから昭和の初めころのお生まれで骨っぽい方々)が東京営業所に頻繁に来訪してくれ当社内では通称『梁山泊』と呼んでいました。東京出張の折には商談支援の情報交換の後、会食をしながら世間話に花が咲き、戦争中の話、政治談議など多様で、お兄さんがロシア語の先生をしていただけの理由でスパイ容疑で当時の特高に引っ張られたご経験をお持ちの方もあることから、当時の軍部批判から、内務省、時の総理大臣、代議士などをこきおろして溜飲をさげていたことを懐かしく思い出します。
元U研究所のIO先生は燃料と潤滑油の大学等の教科書に携わった方で、高分子化学の権威でもありました。ある日、先生と日比谷公園の近くで会食後に当時第二次オイルショックの時期であったことから省エネに関しての講義となりました。
1時間を超える講義は高等数学の方程式を含んだ難解なものでした。
一通り講義を受けた後、先生から『理解できましたか?』と尋ねられ、『難しいことはよく分かりましたが、端的に言えば理解できませんでした。』と答えたところ、先生曰く『分からないのに長時間熱心に聴いてくれたのはあなたのみで、全くの例外です。』と変な感心をされました。
こうしたことがきっかけになり、ロシアの博士が国際的な学会で発表した論文の『エマルジョン燃焼』の話になり、『ぜひこの装置を開発してほしい』との要請がありました。
『当社では無理です。』と返答しましたが、その後梁山泊にいく度に開発要請があり流石の私もこれには根負けをし、開発を決意することとなりました。
地元の造船所に事情を説明し支援を要請したところ、意外にも同意が得られIO先生のご支援もいただきながら共同開発によって1号機が完成し、早速地元のⅠ造船所系列所有の船舶に搭載し実証運転の開始の運びとなりました。
その後、本器搭載船が日本に寄港するたびに訪船し、本器の効果測定をすることになりますが、航海条件が一定ではないことから計測に多少の困難はあるものの数%の省エネ効果があることが分かりました。
一方それ以外の燃焼効果で明らかになったことは次の通りです。
① 窒素酸化物の低減
② 燃焼室の清浄効果は抜群で、オーバーホール時に調べたところ燃焼室ライナー、リング、ピストンクラウン、排気弁、とりわけ燃料弁のカーボンフラワーの生成は皆無であり完全燃焼化に近い効果がみられた。
③ 過給機など煙路の清浄効果もあった。
これらの結果からテストは上々の成果があがり、さらに研究をしてみたいとの社内意見が大勢で、今後につき大いに期待が持てたもののその後燃料費の負担があまり問題にならない社会情勢が続いたこともあり、思うほど販売成果をあげることはできませんでした。
そのため、Ⅰ重工、М重工へエマルジョンの燃焼試験のための納品、また、醤油製造業者、染色工場、酒醸造会社などで使用するボイラー用、船舶用としてイナートガス製造用などの納品などをするのみで、長期間休眠と同様の状況になりました。
しかし、最近は石油価格の高騰という国内事情もあり、エマルジョン燃料製造装置に脚光があたり同装置への引き合いおよび納品が増加中です。
さらに省エネ効果以外の用途として、既設のロータリーキルン、ボイラーを利用する排水処理にも採用されました。
その他、エマルジョン油製造装置であるオメガファイアー(燃料油中のゲル状スラッジの流体化に効果)の再生油に使用してフィルター、流量計、ポンプ、バーナー燃焼などに効果があります。
IO先生との出会いから34年が経過した今、当時を振り返ってみますと、当社にとり実用化までの過大な研究開発費ではありましたが、つくづく人との出会いの不思議さを実感するとともに一期一会の精神の大切さをしみじみ思い、改めてIO先生に感謝の念を新たにしております。
『エマルジョン燃料とは』 燃料油の中に水を入れ、ミクロの水滴を均一に分散させたもの。
この結果、水滴が熱伝導で瞬間的に膨張し、水滴を取り巻く油滴を微細化させ油の気化を促進させます。
このことから、油の完全燃焼が可能となり、酸性雨、光化学スモッグの原因となる窒素酸化物、硫黄酸化物、二酸化炭素の排出量を低減させ、省エネとともに地球環境に配慮した効果が期待できるものです。